10月の漢字「犀」


秋を感じさせるものといえば、私たちをその甘い香りで楽しませてくれる「キンモクセイ」はその代表格でしょう。キンモクセイは、漢字では「金木犀」と書きます。秋深まる頃、街角でふんわりとただよう甘い香り。あたりをよく見渡すと、青々と茂る緑の木に小さなオレンジ色の花が、こんもりと、かわいらしく咲いているのに気がつくでしょう。近づいてみると、その香りは何ともいえず甘く、そのかぐわしい匂いは思わず目を閉じて息を吸い込みたくなるほどです。暑くもなく、また寒くもない、爽やかな秋の季節にぴったりの、可憐なキンモクセイの花は、開花してからおよそ1週間ほどで見ごろを終えてしまいます。桜の花もまたそうであるように、キンモクセイも、限られた期間、私たちの鼻を楽しませた後は、潔く散ってしまうのです。

ところで、この「犀」という漢字、実は動物のサイを表しています。恥ずかしながら、私はそのことを、今回この漢字を書くまで知りませんでした。調べてみたところ、この木を木犀というのは、その樹皮が、サイに似ているからだといいます。言われてみればそうかもしれないな、と思いながら、これまで注目することのなかったその幹を眺めてみました。ざらざら、ごつごつして、武骨な印象です。色合いも、サイのそれのようです。「木のサイ」、なるほどよく名付けたものだ、と思います。それにしても、キンモクセイとは不思議な木です。桜と同じく木に花を咲かせますが、その花は色こそオレンジで明るいものですが、小ぶりなため、それほど目立ちません。しかしその圧倒的な香りのお陰で、私たちはその存在をはっきりと感じることができるのです。目で楽しむ桜、匂いで楽しむキンモクセイ、どちらも日本の四季を代表する花といえます。

秋は五感で味わう季節。視覚、味覚、そして嗅覚。それに鈴虫の声(聴覚)と、頬に当たる爽やかな風(触覚)。どれもが心地よく、私たちの身体を喜ばせてくれるものばかりです。しばしこの実り多き季節を満喫しながら、やがて訪れる冬に備えたいと思います。今年もおよそ70日あまりを残すのみとなりました。